Welcome Aboard -旅するために旅をする

現在、絶賛無職中の僕が、世界中を旅するブログです。

・香港慕情

サムと脱力系のお別れをした後、僕は蘭桂坊に向かった。
ここは前日にヘンリーに教えてもらった場所なのだが、若者がたくさん集まるオシャレな飲み屋街とのことだった。特に金曜日の蘭桂坊はクールでクレイジーだと言う。今日は金曜日だった。
旅を始めてからの僕の生活リズムは、8時には宿に戻り、12時前に就寝すると言うサラリーマン時代とさして変わらないものになっていた。
少々、健全過ぎるし、真面目過ぎた。この旅は25年かけて作りあげてきた、織田潤一と言う枠と言うか殻と言うか檻と言うか、とにかくそう言った物をぶっ壊す為の旅でもあるはずだった。
クールでクレイジー結構じゃないか!
僕はナイトライフを楽しむことにした。蘭桂坊に行き、女の子に声を掛けようと思った。そもそもナンパの経験だってほとんどないし、ましてや海外で外国人の女性相手など皆無のことだった。
駅から蘭桂坊に向かう道筋、僕の頭の中では、ドリカムの「決戦は金曜日」が流れていた。
蘭桂坊には、たくさんのバーやクラブが溢れており、僕はどこに入ろうかと、うろうろ歩き回った。すると、ちょっとした人だかりができた場所があった。近づいてみると有名ブランドの新作ドレスの発表をやっているらしかった。僕は何となくそれをカメラに納めていた。


f:id:yolo-desarraigado:20150829002416j:image
僕たちがお互いの存在に気付いたのは、ほぼ同時だった。「あ、あなたは!」
彼はアベニュー・オブ・スターで僕とブルース・リーとの2ショットを撮ってくれた人の良さそうなお兄さんだった。「こんな所でまた会うなんて、奇遇だね」と僕。「本当に」と彼は笑った。
僕らは互いに自己紹介をした。彼は韓国人のユンと言って、IT関連の仕事をしており、僕と同い年の男だった。夏休みを利用して香港に来ていて、明日、帰国予定らしい。
彼は日本のアニメやドラマが好きで、それらを観ながら独学で日本語を学び、かなりマスターしていた。日本に旅行した経験もあるらしい。僕らは急速に仲良くなり、一緒にちょっとシックなバーに入った。何杯か飲んだ後、僕はユンに「女の子に声を掛けようと思うんだ」と必要もないのに高らかに宣言した。彼はのけ反り「今からかい?」と驚いていた。「そうだよ。だって明日帰っちゃうんだろう?旅の恥はかき捨てと言うじゃない」と僕。「でも、僕はなんぱの経験もないし。。」と気弱なユン。「大丈夫!まかせて」と根拠もないくせに僕は言いきった。さっそく声を掛けようと店内を見渡す。
カウンターに座っている2人の女性に目をやった。後ろ姿なので良くわからなかったが、横顔はなかなか美人そうである。僕は彼女たちに声を掛けた。振り向いた彼女達を観て「ありゃ?」と思った。彼女達は若いねと表現するより、幼いねと表現したほうが良さそうに見えた。僕らのテーブルにやってきた彼女たちに年齢を確認した所、18歳と15歳で二人とも同じ高校の女子高生だと言う。
「ありゃ、ありゃ」
すでに何杯か飲んでるらしく、彼女たちの顔は赤かった。
一杯奢るよと僕は言った。彼女たちはカクテルのおかわりを頼もうとしたが、僕らは成りませぬとノンアルコールを注文させた。
香港は天国じゃないし、彼女たちだって天使じゃない。女子高生だって口があればアルコールぐらい飲めるし、ちょっと背伸びして外に飲みに行きたいと言う彼女達の気持ちも理解できた。僕にしたところで、高校生の頃、清廉潔白な学生だったかと言ったら、全くそんなことはない。
でも、自分がそうだったからと言って、大人が子供にお酒を薦めていい理由にはならない。
僕はくどくど説教するなんて鬱陶しいことはしなかったけど、彼女たちもそれ以上アルコールを注文したいとはいわなかった。結構楽しく話して僕らはそこで解散した。
歩いて帰れる距離に住んでると彼女たちは主張したが、ふらつく足元を見て、これでタクシーで帰ってと100ドルを渡した。彼女たちはサンキューと言って、笑顔で帰っていった。

f:id:yolo-desarraigado:20150829002741j:image


f:id:yolo-desarraigado:20150829002759j:image
次の店をユンと一緒に探す。
今度の店はさっきとうって変わって賑やかな店だった。僕は基本的にクラブと言うのが嫌いだった。うるさくて、暗くて、退屈と言う以上の感想を持てなかった。しかし、その店は生バンドで演奏しており、ビートルズや、BONJOVI、ゴールドプレイなんかのポピュラーなロックを演奏してくれたお陰で、自然にのることができた。

f:id:yolo-desarraigado:20150829003529j:image

しばらく演奏を楽しみながら飲んだ後、今度はOL風の女性2人組に話しかけてみた。
「俺が日本人で、あっちに座ってる彼が韓国人、一緒に飲まない?」と言うと、髪の長い彼女は「あ、私日本語話せるよ」と一言。英語での口説き文句を頭に浮かべていたので、肩透かしを食らった。
なんにせよ安心した。僕らは彼女たちの許可を貰い、席を移動する。
日本語を話せる彼女は、ステフというマカオ人だった。(Facebookで繋がっているので、一応仮名にしとく)
彼女は、神戸の大学院を卒業しており、現在は日本、香港、マカオを拠点に小さな貿易会社を経営している女社長だった。今は神戸在住らしい。彼女は僕なんか到底及ばないぐらいの旅行好きで、世界中、いろいろな所に旅をしていた。僕らは行ったことのあるインドやフィリピンの話で盛り上がった。
僕は昔から、賢くて、活動的な女性が好きだった。そう彼女は僕のタイプだったのだ。賢くて、活動的でおまけに美人。僕はいつしか彼女を冗談半分ながら口説いていた。爆音が轟く店内。ステフが僕の耳元で叫ぶように聴いてきた「なんで香港に来たの?」僕は彼女の耳元で「君に会いに来た!」と言うと彼女は嬉しそうに僕の右腕をバシバシ叩いた。ちょっと寒いセリフかも知れないけど、その時の僕は本気でそう思った。僕ら4人は全員平成元年産まれで、何度も「平成元年!」と言って乾杯した。
その後、ステフの友人だと言う男女4、5人が合流した。ドイツ、ノルウェー、香港、アメリカと見事に国籍がバラバラで、僕らの席は一気に国際色豊かで、賑やかなものになった。アメリカ人のヴィクターと言う男が愉快で、音楽に合わせて踊り、女性人に紙ナプキンで作った薔薇を膝まづいて渡していた。僕らはヴィクターが無差別にする投げキスをかわすと言う遊びを飽きもせずにずっとやっていた。僕もユンもステフも、みんな良く笑っていた。
楽しいなぁと思った。なんだっけこの感じと思うと、それは大学生の頃、気心知れた友人と一緒に鍋を囲んで、朝まで飲んでいる時の雰囲気に似ていた。たった3年働いただけで、青春という言葉が何を指すのか僕は忘れていたようだ。人生で二度も青春があるなんて、僕は幸せ者だと思った。

f:id:yolo-desarraigado:20150829003635j:image
店をみんなで出てから、僕は彼女に「この後、二人で飲み直そう」と誘った。彼女は明日、朝早いんだと言った。どうやらここにいるメンバーで船を貸しきって、パーティーをするとのことだった。僕が残念に思っていると、彼女が「明日も香港にいるんでしょ?またここで飲みましょうよ」と提案してくれた。僕の顔には香港の夜景にも負けない100万ドルの笑顔が張り付いていたはずだ。
僕らは明日の再開を約束して別れた。僕は考えた。このまま彼女のことを、香港で知り合ったちょっと感じの良い娘という淡い思い出にするのか、本気で彼女に近づくか。。後者を選んだ場合、僕の旅は終わるのか?それでも構わない気がした。
それにしても多くの、本当に多くの偶然が重なっている気がした。もしサムに会わなければヘンリーとも会えず、蘭桂坊に来ることもなかった。そうなればユンとも再開しなかったし、ステフと知り合うこともなかった。ぷよぷよだったら勝利を確信するぐらいの偶然連鎖が起こっていた。偶然がいくら重なったって、それだってやっぱりただの偶然だよ、と笑われるかもしれない。けど僕はその繋がりの偶然に意味を見いだした。きっとそれが最も大切なことなんだと思う。
終電をとっくに逃していた僕とユンは、タクシーを拾うことにした。僕らの宿は共にコーズウェイベイの駅の近くだった。偶然。ほらやっぱり繋がっていると嬉しくなる。
朝方、僕は明日を楽しみにして眠りについた。
しかし、人生楽しいことや、幸せなことだけで終わってくれるほど甘くはないらしい。
ステフからの連絡を今か今かと待っていたけど、彼女からのメールはこなかった。夕方を過ぎ、僕の方から連絡してみることにした。「船から戻ってきた?今夜も飲みに行こう!」しかし、彼女からの連絡はなかった。僕は苦笑した。どうやらフラれる、フラれない以前に相手にされてなかったらしい。
その後は、女々しくメールをまたするなんてことはしなかった。
香港から旅立つ数日前、ステフから連絡がきた。「ごめん。Facebook観てなかった」現在はマカオにいると言う。一瞬「君に会いにマカオに行っていい?」とメールをしようとして止めた。彼女もそれを望んでいないような気がした。僕は「日本に帰ったら連絡するから、いつか神戸で合おう」とメールした。
彼女とはFacebookで繋がっているので、もしこのブログを観ていたら、下手な告白みたいになってしまい少々気まずいが、まぁ良いか。。
ステフに会えて良かったとだけ伝えたい。
香港を舞台にした昔のハリウッド映画で「慕情」というのがある。ハッピーエンドで終わらないラブストーリーなんて大嫌いだと僕は思った。
男はつらいよで言っていた寅さんのセリフを思い出す。
浪花節だねぇ人生は」
浪花節だねぇ。。