Welcome Aboard -旅するために旅をする

現在、絶賛無職中の僕が、世界中を旅するブログです。

・ シンフォニー・オブ・ライツ

ブルース・リーに、目線を相手から外さない彼式のお辞儀をして別れた後、僕はビクトリアピークに向かった。
そこは、小高い山の上に展望台とお土産屋、レストランなんかがある複合施設だった。香港の100万ドルの夜景を堪能できるということで是非、来てみたかったのだ。
しかし、人気スポットだけあって道のりは険しかった。ビクトリアピークに向かう専用列車に乗るまでに、1時間半ぐらいかかった。一緒に並んでいたスウェーデンのカップルとクレイジーだとぼやきあった。
ようやくたどり着いたビクトリアピーク、日はすっかり暮れ、全てが光で出来ているような素晴らしい夜景を観ることができた。
もうひとつ、僕はここで楽しみにしていたことがあった。

「シンフォニー・オブ・ライツ」
香港政府観光局が、毎晩8時から13分間開催しているナイトイベントだった。ビクトリアハーバーの夜景に、香港島、九龍島の主要な高層ビルから放たれる色とりどりのレーザーが加わり、世界中から訪れる観光客を魅了し続けてる。らしい。ちなみに、このシンフォニー・オブ・ライツは、ギネス世界記録でも「世界最大の永続的な光と音のショー」として認定されている。
僕は有料の展望台には登らず、ビルのベランダから観ることにした。すでに20人近い人がいたが、果たしてこの方角で観れるのか自信がなかった。僕は隣にいた白人の青年に訪ねてみた。
「この方角でシンフォニー・オブ・ライツ観れるかな?」
彼は「良くわからないけど、たくさん人がいるし、間違えないんじゃないかな」と言った。ショーが始まるまで30分以上あった。僕らはぽつりぽつりと言葉を交わしていった。
彼はイギリス人のサムと言って、現在、韓国の小学校で英語を教えている先生だった。香港に来た理由は、夏休みを利用して、香港に住んでいる友人に会いに来たという。
僕が世界中を旅行していて、イギリスにも行くよと言ったら、おすすめの観光地を教えてくれた。サムの彼女は現在、日本の大阪に住んでいるらしく、来月会いに行く予定だと言う。僕はお返しに、大阪のおすすめスポットを紹介した。
シンフォニー・オブ・ライツは僕が期待し過ぎたのか、正直微妙だった。パチンコの宣伝用ライトを少々大げさにしたぐらいで、僕は香港政府観光局もギネス協会も大したことないなと思った。しかし、どんなにショボくても僕とサムを仲良くさせてくれただけで、僕にとって計り知れない価値があった。

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ちなみに、後日、シンフォニー・オブ・ライツをベストビューポイントであるアベニュー・オブ・スターから観たのだか、ショーの間はレーザーに合わせて、テンポの良いバックミュージックが流れて、「いかれたメンバーを紹介するぜ!まずはエンパイアステートビル!」光りドン!てな具合にナレーションも加わり、本当に本当に良かった。疑ってごめんよ。香港政府観光局。あとギネス。

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シンフォニー・オブ・ライツを見終わったあと僕とサムは、一緒に夕御飯を食べることにした。サムは「明日、何してる?」と聴いてきた。「何してるかな?香港の観光地をいくつか回ろうと思ってる」と僕が言うと、
「じゃあ、一緒に回ろう!夜は友人と食事に行くから君も来たらいい」とサム。
突然のお誘いで嬉しかったが、少々心配にもなる「嬉しいけど、突然、知らないやつが参加して友達怒らない?」彼の答えは「ノープロブレムだ」とのこと。僕は参加してみることにした。
次の日、僕らはサムの友人と合流するまで、香港歴史博物館、香港科学博物館、香港スペースミュージアムと次々博物館をはしごした。旧石器時代の人々の暮らしに触れ、最新科学を体験し、ついには宇宙に飛び出し、自分が今、何をやってるのか良くわからなくなってきた。
夕食から合流したサムの友人のヘンリーは、良心が服着て歩いているような、優しい香港男子だった。香港の不動産関係で働いているらしく、サムとは香港からイギリスに留学していた時に知り合ったという。突然やってきた僕を笑顔で受け入れ、僕が「香港の観光地でおすすめあるかい?」と聴いたら、紙にたくさん書いてくれ、どこそこはこんな所で。。と丁寧に説明してくれた。
ヘンリーは、会計は自分が払うと言い。僕らが強硬に払うと主張すると「君たちは100ドルでいい」と半分以上は支払ってくれた。散々飲み食いしたあとで申し訳なかったが、ここは好意に甘えることにした。
ヘンリーありがとう!

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次の日もサムからメールが来た。サム「今日は何してる?」僕「ヘンリーに教えてもらったランタオ島に行こうと思う。一緒に行く?」サム「行く」僕「ん」
ランタオ島は自然に囲まれた美しい街の景観が有名で、仏教の歴史的建築の数々などがあり、信仰の島としての側面も持っていた。
ランタオ島に到着し、僕らは世界最大の野外大仏のある昴坪大仏を目指して、ゴンビン360というケーブルカーに乗ることにした。
例のごとく長時間待たされたのだが、サムと一緒だと、ちっとも退屈しなかった。

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ケーブルカーを登りきり、大仏を見上げながら僕は、「仏教徒は大仏に手を合わせて、健康や幸福を祈るんだ」と説明する。サムは「なんで大きくなくちゃいけないの?」と聴いてきた。僕が「お、大きい方がご利益ありそうだろ?」と言うと分かったような分かんないような顔をした。何で大きくなくちゃいけないんだろう?

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帰り道トイレに寄った。僕はトイレの前で少々考え込んでしまった。と言うのも、ランタオ島に向かう地下鉄の車中、サムはおじいちゃんと子連れのお母さんに自然に、本当に自然に席を譲っていた。さすがの英国紳士である。話しに夢中で、周りを見えていなかった自分が恥ずかしかった。
トイレの前はジェントルマンとレディースに別れていた。ある意味重い問いかけかも知れない。お前は紳士か?と問われた時、僕はこれまでの自分の行為を振り返って、自信を持って「そうだ紳士だ」と言えそうになかった。かと言ってレディースに入る訳にもいかず、いつもより少しだけこそこそしながらジェントルマンに入る。女性の方はご存じないかも知れないが、日本の男性用トイレには「一歩前に!」と言う張り紙が貼ってあることが多い。もしかしたら、男であろうが、女であろうが、サムのように一歩前に踏み出して人と積極的に関わろうとする姿勢のことをジェントルと言うのかもしれない。。そう「一歩前に!」
ランタオ島から戻り、僕らは駅のホームでお別れすることになった。サムは明日、韓国に戻る予定だった。ほとんど3日間一緒に過ごしたのだ、最後にバグでもしてやろうと思っていたが、サムはいつも通り「じゃあ、また」とさっぱりしている。僕も「ありがとう。写真送るよ。またな」と挨拶しただけだった。
サムが電車に乗り込み去っていく。サムという男と数日間過ごし分かったことがある。前日ヘンリーと別れたあと、「ヘンリーいい奴だね」と僕が言うと、サムは「ああ、本当にいい奴なんだ」と少し照れ臭そうに話していた。
彼はシャイなのだ。
もしかしたら、サムは僕との別れも照れていたのかも知れない。「もう、俺とお前は友達なんだから、大げさな感謝の言葉も、大層な別れの挨拶もいらないだろ?また会うだろうし。。」と
勝手な想像だけど、僕はそんな風に受け取った。
そう、僕らはまた会うだろう。。いつか、きっと。
そういえば、ランタオ島から戻る電車賃をサムに貸していたのを思い出す。
今度会った時に、気軽にこう言ってやればいい。
「サム、25ドル(約390円)返せ。コノヤロー!」