Welcome Aboard -旅するために旅をする

現在、絶賛無職中の僕が、世界中を旅するブログです。

・シェムリアップの王子

「よし!」と言葉に出し、勢い良くタケオゲストを後にする。勢いでもつけないと宿に戻って、ベッドにごろんと寝ころんでしまいそうだった。
YAMATOゲストハウスに歩いて向かう。鼻息荒く出たものの、タケオゲストから3分ほどで着いてしまった。目と鼻の先だったのだ。
ゲストハウスに併設されているレストランを横切り、受付にいるカンボジア人の男性に話しかける。「ここで働かせて下さい!」と「千と千尋~」の千尋ばりの必死さでお願いをする。
しかし、男性は困り顔だ。そう困られても困ってしまう。「ちょっと待ってて」と言われベンチに腰かけて待機する。
しばらくして日本人の女性がやって来た。とりあえず湯婆婆ではない、綺麗なお姉さんが出てきて安心した。お互いに自己紹介をする。ゲストハウスとレストランの経営をしている女性は早織さんと名乗った。僕は早織さんにもう一度「ここで働きたいんです!」とお願いをする。しかし、早織さんも困り顔。「いつもはワークアウェイ募集してるんだけど、今ちょうど2人入って貰ってるのよね」との事。断られるかと思ったけど、僕の謎の必死さが伝わったのか、早織さんは「まぁ、いいか!働いてもらいましょう!今から大丈夫?」と言ってくれた。
5時間働く代価として、宿泊させて貰え、昼と夜まかないが出るようだ。
まず、僕は受付とドミトリールームの清掃を任された。
受付から書類の整理と清掃を始めると、何だかだんだん乗ってきた。
普段は身の回りの整理、整頓に無頓着な癖に、一度スイッチが入ると掃除を完璧に仕上げたい人間がいるが、僕はその典型だった。
僕は落ちてるホコリをまるで
親のカタキのような執念さで追い詰めて、端っこに固まってようが、棚の裏に隠れてようがキレイに拭き取ってやった。ドミトリールームの清掃に移ると、昼過ぎなのに結構みんな寝ていた。「やれやれ、こんな時間まで寝て過ごして、しょうがない奴らだな」と昨日までの自分を完全に棚において心のなかで呟いた。掃除が一段落してから、今度はレストランの手伝いをすることになった。僕に仕事を教えてくれたのは、さばさば系女子のサイーンと、癒し系イケメン男子のプリンだった。2人とも高校生で、本当に良い子達だった。
サイーンはあれやって、これやってと、さばさば指示してくる感じ。逆にプリンはいつもお願いする感じ。それに「潤さん、仕事覚えが早い、賢いですね」と誉めてくれ、低姿勢だ。何だかこそばゆい。
ちなみにサイーンは、自分の出身の村に早織さん達が支援して、小学校を建設して貰った過去があるらしく、その縁で働いた。その為かシフトに入ってない時でも自発的に手伝いをしていた。
また、プリンはレストランで働いて、自分で学費を稼いでいるらしい。朝からゲストハウスで働き、昼から通学していることが多いようだった。
何となくだけど、プリンはサイーンに好意を持っているような気がした。同じ場所で働いてるのも「気になるあの娘も注文取ってるし。。」的な思惑が見栄隠れしていた。そんな2人のやり取りは観てて、面白かった。僕は人知れず、プリンの恋がうまくいくように祈った。(全然、思い違いかもしれないけど)
しかし、そんな2人を面白がって観てる場合ではなかった。夜になり、レストランにお客さんが大挙してやって来たのだ。しかも、こんな日に限ってスタッフが少ないらしい。僕は注文を取ったり、接客したりするホールの仕事と、皿洗いやドリンクを作るキッチンの仕事を同時に教わりながら覚えていった。てんてこ舞いになりながらも、何とかこなすことができたと思う。こんな風に何とかこなせたのも、学生時代に何年も飲食店で働いていたお陰だろう。八王子駅近くのバー「ガリバー」を思い出す。前本店長、あなたに教えて貰ったことが、こんな時に役にたちましたと伝えたい気持ちになった。一段落した頃、早織さんが声をかけてきた「潤君、今日はありがとう。長く働いて貰っちゃって、ごめんね」と労ってなくれた。確かにあっという間に時間がたっていた。最初に説明を受けた、労働時間の5時間は5時間前に過ぎていた。「いえ、楽しかったし、全然大丈夫です」と本心から言った。「明日も何時間でも良いですよ」と続けたら、早織さんも意外だったようで、面白がってくれた。今日のお礼と言うことで、早織さんからお酒をご馳走になる。
早織さんの友人も加わり、楽しく飲み会は続いた。「潤君、カッコいいね」「シェムリアップの王子に加えよう。(何かそんなのがあるらしいです。ちなみにプリンも王子認定済み)」と口々に言ってくれた。美人なお姉さん達に、カッコいいと誉めて貰えたら、悪い気はしない。

すると、仕事を終えた女の子達がカメラを持ってやって来た。僕と一緒に写真に写りたいのだなと思い、襟元を正す。よろしい。シェムリの王子と写真を撮ろう。
しかし、彼女達はカメラを僕に手渡してきた。どうやら写真を撮って欲しいだけのようだ。なんてベタな勘違い。アルコールとは違う理由で顔が赤くなる。日本から遥か離れたカンボジアの地で、僕は自己愛の大きさに気づかされた。どうせならもっと自分を愛そう。


f:id:yolo-desarraigado:20151212222340j:image

次の日は、本棚の整理から始めた。YAMATOゲストハウスはタケオゲストハウスと同じく、たくさんのコミックや小説が置かれていたが、利用者が適当に戻す場合もあって、巻数が順番通りになってないものがほとんどだった。僕はそれを1巻から順に並ぶように直していった。(こんなに、こち亀の巻数の多さを呪ったことはない。)ただ、巻数を正すだけでは、もったいない気がしてきた。見つけることができなかった漫画のタイトルと、何巻がないかメモって早織さんに渡すと喜んでくれた。
続いて翻訳の仕事。早織さん達が作っているシェムリアップの情報紙、「くろまる」の英語版の翻訳をお願いされた。僕の英語力はそれはもうひどいものなので 、慌てて「できないですよ!」と言うと、翻訳と言っても、実は知り合いの英語が堪能な人にすでに翻訳してもらっているものがあるのだが、印刷されたものと、その翻訳してくれた人の原文を見比べて、印刷ミスがないかチェックをするついでに、もし翻訳ミスに気づいたら教えて欲しいとのことだった。僕は胸を撫で下ろす。しかし、印刷ミスを探すのも大変で目がしばしばしてきた。なけなしの集中力を使いようやくチェックを終えるとまた、レストランの仕事に戻った。
レストランにやって来るお客さんも働いているスタッフも面白い人が多くて、僕は好きだった。
お客さんは、様々な理由でシェムリアップに住み着いた日本人も多かった。昔、テレビの企画(電波少年)でアンコール・ワットへ続く道の舗装をして、そのことがきっかけでシェムリのガイドを始めた人。シェムリが気に入って、オフシーズンになると毎年やってくる旅人などなど。
スタッフでは、同じワークアウェイ仲間の女の子2人も明るくて、面白かった。メキシコからやって来た学生パッカーのサンドラ。ビーガン(完全菜食主義者)でスウェーデン出身のルイース。面白い出逢いが山のようにあった。そのことを早織さんに話すと「そうでしょ。YAMATOには魂のレベルが高い人が集まるのよ」と言っていた。魂のレベル。。僕には何だか良くわからないけど、仮にそんなものがあったとして、僕の魂のレベルは、あんまり高そうじゃないなと思った。
しかし、偶然でもYAMATOに集まっている1人として、水をさす訳にはいかない。僕は魂高めの目線を作って「本当にそうですね」と答えておいた。


数日が経ち、シェムリアップ複数のゲストハウスを展開し、YAMATOのオーナーでもある西村さんがやって来た。早織さんが僕のことを誉めてくれて、それを聞いた西村さんが「今度、東京にゲストハウスを進出させようと思ってるんだけど、スタッフとして働かない?」と誘ってくれた。
リップサービスだとしても、有りがたい。誰かに必要として貰えたのが嬉しかった。取りあえず、旅が終わったら連絡して欲しいと言われた。
しかし、明日どこで何をやってるのかわからないのに、半年後の自分なんて、今は想像もできなかった。

それから更に数日間、僕はYAMATOで働いた。
僕は思った。自分はただの旅人で、すぐにここから去ってしまうけど、ここで出逢った人達には、いつまでも僕のことを覚えていて欲しいと。それ以上の強い気持ちで、僕も彼らのことをいつまでも、いつまでも忘れたくないと思った。この文章を書いてる今、すでにカンボジアを去って数ヶ月が経ってしまったけど、僕は今でも、YAMATOのスタッフやお客さんとFacebookなどで繋がっていて、彼らは僕に生きた情報をくれ続けている。たとえか細い繋がりでも、いつまでも繋がっていたい。
甘いかな。でも、今は、その甘い考えを信じている。